© 2018 KEIRIN MAGAZINE WEB このサイトの全ての写真、映像、文章の複製、転載を禁じます。

佐藤一朗の「勝つ為のトレーニング」第6回

みなさんこんにちは佐藤一朗です。

前回までの話で、トレーナーズハウスで行っているコーチングの簡単な流れを説明させて戴きました。今回はちょっとその流れから外れますが、トラック中長距離やロードレースを中心に競技活動を行っている方へトレーニングに対する僕の考え方を少しお話ししたいと思います。

 

 

<中長距離・ロードのトレーニング>

 

 

 僕の口から中長距離やロード選手のトレーニングと聞くと驚く方もいらっしゃるかも知れませんね。これまで書いていたけいりんマガジンのコラムでは常に競輪を意識したトラック短距離のトレーニングばかりでしたから、「佐藤一朗がロード選手の指導」と聞けば不思議に思っても無理はありません。実は僕が今指導している鹿屋体育大学自転車競技部はロードの強豪校として知られているチームで、今年も全日本選手権を含め全日本/全日本学生レベルの大会で何人もの優勝者を輩出しているチームです。もちろん指導はチームの選手全員が対象ですから、トレーニングの際にはロード班の選手もトラックでトレーニングを行っています。

 

 このコラムを読んでいる方の中には競輪とロードは同じ自転車競技であっても全く別の物と考えている人も多いと思います。もちろんレースの形態や展開、必要とされる競技力には違いがありますが、運動生理学や解剖学のレベルで考えると実は殆ど違いは無いんですよね。ただ必要とされる能力のバランスが少し違うだけで。

 

解りやすく言うと

競輪選手は「ダッシュ力>スピード>持久力」ですが、

ロード選手は「ダッシュ力<スピード<持久力」と言った感じでしょうか!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鹿屋体育大学で指導を始めたときにも、ロードを主体としている選手からはトレーニングに対する「抵抗感」が少なからず感じられたのも事実です。

 

 それはそうですよね。それまでロードを乗り込むことで戦ってきた選手に、トラックでパワーやスピードを主体としたトレーニングメニューを指示するわけですから。ただこのチームの素晴らしいところは、そんな疑問に思ったトレーニングでも決して否定することは無く、全力で取り組んだ中から何かを見つけ出そうと積極的な姿勢を示す選手が多いところです。おかげて2度3度指導するだけで直ぐにその意味を理解してくれて、かなりハードなメニューでも喜々として取り組んでくれています。まぁ、多少の悲鳴は上がりますが。。。

 

さて、前置きはこのくらいにして本題に入ります。

 

 以前の日本のロードレースは確かに持久力と登坂力があれば戦えるものでした。(以前と言っても昭和の話です。)しかし日本のロードレース界も年々レベルアップしてきて、夢と言われていたグランツールを走る選手が1人2人と現れ、世界で戦うことが叶わない夢では無く、実現可能な目標と捉えられるほど日本のロードレースのレベルは上がってきていると感じています。

 鹿屋体育大学の選手の中ににも世界で戦うことを夢見ている選手は多く、既に海外に拠点を置くチームに所属して活躍したり、日本に拠点を置きながら海外を転戦している卒業生を多く輩出しています。

 そんな海外のレースを経験した選手達に「現時点の実力と世界とのギャップ」について尋ねてみると、殆どの選手が「パワーの差」に付いて一番ショックを受けているようでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 特に緩やかな登坂でギアを掛けたまま登る時のスピードや、厳しい登坂でのアタック、平坦であっても横風の強い区間での走力には歴然とした力の違いを感じているようです。

 それもそのはずです。今年のツール・ド・フランス第4ステージ、25kmのチームタイムトライアルで優勝したオリカ・グリーンエッジのタイムは25分56秒。時速にして57.8km/h。これをトラックレースの4kmチームパーシュートに置き換えると4分9秒台。現在の日本記録が4分11秒103ですから、それよりも早いペースで25kmを走ったことになります。

 

 競輪ファンの方に解りやすく言うなら、400mバンクの上がりタイム12秒4のスピードで400バンク約62周走りきる感じです。トラックとロード、しかも9人でのタイムトライアルですから一概に比較は出来ませんが、それだけのパワーとスピードを持っていなければグランツールでは戦えないと言うことです。

 

 ではこれだけ高いパワーとスピードを世界ではどのようなトレーニングで身につけているのでしょう!? 

 

 実はそれがトラックでのトレーニングなんです。このコラムを読んでくれている方は殆どがトラック競技、もしくは競輪ファンの方だと思うのであまり知られてはいないと思いますが、現在グランツールで活躍している多くの選手はジュニアやアンダーの時期にトラックレースで活躍していた経歴を持っています。

 

 自転車競技の強豪国と言われているオーストラリアや、イギリスを始めとするヨーロッパの国々では、ジュニアからアンダーの時期はトラックレースでパワーとスピードを養い、その後ロードに転向して持久力を高めていく方法が最近の主流になりつつあります。

 

 最近の選手で言えば昨年のツール・ド・フランスとロンドンオリンピック個人TTを制したブラッドリー・ウィギンス選手はその典型的な例だと思います。また以前国際ケイリンで来日した事もあるオランダのテオ・ボス選手は、1KM、スプリント、ケイリンの世界チャンピオンに併せて五度も輝いたスプリンターでしたが、2009年彼が26歳の時にロードレースに転向し現在も活躍しています。

 

 ではどうやってトレーニングすればロードに必要なトルクやパワーを身につけられるのでしょう!? 

 基本的には筋力(トルク)は筋肉の断面積に比例して大きくなるので、残念ながら筋力を上げる為には筋肉を肥大させ筋量を増やすしかありません。その上で増やした筋量をカバーするだけの有酸素能力を身に付けることでロードレースに必要な持久力のあるパワーを生み出すことが出来ます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕が走っていた頃のロードレースでしたら通常のロードトレーニングでも十分間に合ったのですが、先ほども書いたように今のロードレースはスピードが違います。

 

 そこで研究されてきたのが持久力とパワーの運動生理学的な関係です。難しい事は省きますが、パワーのある持久力を高めて行くためには、これまで考えられてきたようなAT値を超えない中負荷トレーニングを持続して行うのではなく、まず最大酸素摂取量を上げるために高負荷のレペテーショントレーニングを積極的に取り入れ、その後そのパワーを使いこなすために有酸素能力を高めLT値を上げていくということに行き着きました。「高負荷のレペテーショントレーニングが安易に出来る環境」つまりそれがトラックトレーニングと言うことになります。

 

 そしてトラックトレーニングの有益なポイントはもう一つあります。それは一定の走行条件の中でトレーニングする事によって選手の解析が行いやすく、出力ロスの改善や強化ポイントの抽出が容易に行えると言うことです。つまり普段トラック短距離選手に行っている基本的なトレーニングプログラムはロード選手にとっても有効だと言うことですね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 如何でしょうか!? このコラムを読んで戴いているロード選手がどの位いらっしゃるか分かりませんが、少しは参考になったでしょうか!?

TRAINER'S HOUSE 代表 : 佐藤一朗

略歴 : 中央大学商学部会計学科卒
   湘南医療福祉専門学校東洋療法本科卒
   自転車競技 世界選手権 元日本代表
   プロ競技選手 NKG63th ('89~'06)

資格 : 厚生労働大臣認可・国家資格
   はり師 きゅう師 あん摩マッサージ指圧師
   日本体育協会 公認コーチ(自転車競技)

web site  http://www.trainers-house.net/